7月22日 発表者:加藤 宏尚
もし犯罪のほとんどない世界があるとしたら,それはどんな世界だろうか
- 設定
- 犯罪を防ぐことが最優先の世界を想定する.
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- はじめに
- 今回も前回同様なかなかテーマが決まらず、図書館をさまよっていたらふと前に読んだ小説の「クライムゼロ」が目に留まり,これから着想を得ました。犯罪については、犯罪学という学問が「犯罪とは何かそしてそれをどうやって解決するか」ということを研究し続けているぐらいなので,一概に何かとは言えません。
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- (はじめに少し注意しておきたいこと)設定で言ったことで,みなさんを「なぜ犯罪がない世界なのに犯罪を防ぐことが必要なのか」と混乱させてしまったかもしれません。犯罪のほとんどない世界があるとしたら,そこでは必ず人為的に犯罪を防ぐ策がとられている,と私が思ったので,設定で「犯罪を防ぐことがこの仮定の世界で行われている」といいました。そして,この仮定の世界は今の世界の延長線上にあるものとして考えたわけで、講義中は主に、犯罪を防ぐ対策、仮定の世界ではどのような対策がとられているかを可能な限り考えてみました。
- 考察
- この世界で起こっていること(対策)について犯罪の要因である3つの項目に分け論じます。
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- 犯罪の要因
- 1 社会背景面
2 食生活(栄養)面
3 遺伝子面
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- ここからは、ある事実があって=>その原因を防ぐために仮定の世界で為されているであろうこと(対策)、という形で説明します。=>記号の意味は,「原因=>起こること」です.
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- 1 社会背景面
- まず犯罪大国であり、それゆえ犯罪についての研究がよく進んでいるアメリカについての話:
- アメリカにおいて,究極の犯罪である殺人の主な原因はピストルの入手のしやすさ=>ピストル禁止
- アメリカで,暴力犯罪を犯して有罪となった人の54%の人は,すぐ前にアルコールを飲んでいた
- 都市は田舎よりも犯罪が多いのは、過密であること、薬物がより浸透しているため
=>アルコール・薬物は禁止
- 情緒障害児は現実とフィクションの区別をするのが苦手.テレビ上の,暴力行為やその他暴力シーンを娯楽の一部としているものが,犯罪者に影響を与えている=>主にテレビ、ゲームなどの娯楽から暴力行為をほとんどなくす、やさしくする,または批判的なテレビ視聴能力の育成、道徳教育の充実
- 大阪や東京のある街では,監視カメラが設置され警備されている(その効果が発揮されているかどうかはわからないけど多分あると思うので)=>自由が今より少ない監視社会->魅力に欠ける社会
- 後から聞いたのですが,大阪での監視カメラ設置は,犯罪を防ぐためではなく落書き防止のためにつけたのだと注意されました、間違いをおわびします。しかし,落書きも罪を犯すことであり,多分違法行為なのではないかという意味で,大げさですが犯罪なのではないかと僕は思います。
- 犯罪が起こる要因のひとつは貧富の差かもしれない=>この世界は共産主義社会(生活条件がみんな均等であることが必要)
- 2 食生活(栄養)面
- 低血糖が抑うつ、活動過剰、極度の反社会的行動やよく言ういらいらをひき起す=>高蛋白で低糖の食事を食べる(これが血糖値が低くならないようにする食事)
- このような食事は今でもアメリカで犯罪を起こした低血糖症の人が入っている一部の刑務所で食事療法としてとられている。また,低血糖症でない人も先に言った食事をとる必要はないが,糖分を常に摂るように義務づけられている。(低血糖症の人は糖分普通の人と同じように摂ってはいけない、なぜなら,低血糖症の人は,糖分を摂るとインシュリン過剰分泌によりさらに低血糖になってしまう,という悪循環をひき起すから。)
- 均質低音殺菌牛乳の多量摂取は人を逸脱行動に傾かせる=>均質低音殺菌牛乳の量的上限をもうけ、多量摂取は禁止
- ジャンクフードには摂るべき栄養が不足している=>ジャンクフード店は繁栄しない、又ジャンクフードはmainの食事にはならず、間食として食べられる->ハンバーガーの素材である牛肉を作るのに必要な牛の牧草地に,熱帯雨林を使わなくなるか,またはその量はかなり減る->環境改善
- 3 遺伝子面
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- 暴力犯罪の90%以上は犯人が男性=>犯罪者が共有する、男性のみがもつDNA配列を改変する
- 男女に関係なくセロトニン(神経伝達物質)やテストステロン(ホルモン)濃度が低い人は行動を抑制しにくい=>そのような人たちにはそれらを定期的に接種または体質の変更をしてもらう
- 極論をいえば男性がいなくしてしまう(これは小説「クライム・ゼロ」のクライムゼロプロジェクトによって推し進められようとした内容です。)
- この世界について
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- 「犯罪は我々の社会において潤滑剤の役目を果たしている」とデュルケームが言っている。=>上の仮定の世界では社会が正常に機能しないのか?
(聴衆からの意見)・犯罪に気づくために犯罪はある.・警察や法廷はなくなってしまっているだろう.
- (浅野先生の意見)犯罪の役目である「潤滑剤」というのは,今の社会においてやむをえず発生している軋みのようなもの。今の社会のモデルでは,犯罪やその他しょうがなく起きている問題がなくなるのは難しい.社会における様々なシステムを考えるとき,予め軋みが発生しないようなものを考えることができるほど,人はまだ頭がよくない。
参考文献
- 「栄養と犯罪行動」
自分の犯罪行為の結果について大体予測がつくであろうに,なぜ犯罪を起してしまうのかという原因をさぐるのに,一つの要因である栄養と食事に着目した本。
- 「 犯罪学入門」
犯罪学とは犯罪を素材としての原因を考察し(犯罪原因論)、対策を模索する(刑事政策)
- 「 crime zero」
発表者の感想
- 講義中も多くの時間をさいた「犯罪を防ぐためにこの世界で起こっていること」だけではなく,難しい内容だとは思うのですが、先生の意見のような「犯罪が無くなったら,犯罪には直接関係しないどんなことに影響を及ぼすか、そして犯罪がなくなることで社会において正常に機能しないものがあるとしたら,それはどんなものか」ということをみんなで考えればよかったと思います。
- それから、ゼミのあとに,実際に今の世界でも犯罪の起こらない所があるのではないのか,といわれてはっとしました。私は,自然発生的に犯罪が無い世界などないと思う,といいましたが,いろいろな文化を検討すればあるのかもしれない(私もそういう所があると聞いたことはあるのですが,犯罪というものの範囲は文化によって違うので,こちらから見て犯罪が起きていなくても,相手の世界では犯罪が起こっているかもしれないから,犯罪が無い世界が本当にあるのかどうかわからない)と思いました.そういう世界があったら,なぜ犯罪が起こらないのか,それを知りたいと思います。
浅野の感想
- 「とにかく,犯罪をなくすことだけを最優先にする」という非現実的な社会を仮定し,その結果生じる軋轢について考えるというのは,このゼミの趣旨にも沿っていて,よいものだと思います.「犯罪をなくす」ということは概ね正しいことですが,それ「だけ」をつきつめると,発表者が考えたように,いろいろおかしなことが起こります.これは,「犯罪をなくすことだけを考える」というモデルが現実に合っていないことを示しています.では,どう妥協すればよいでしょうか.それが,社会のありかたを考えることだと思います.ただ,今回の発表では,発表者の考えを話すのに時間がかかりすぎて,聴衆の意見を聞く時間があまりなかったのが惜しまれます.