よく似た画像の組が,もともと同じものを写したものなのか,似たものだけれども違うものを写したものなのかを判別し,さらにその判別の確信度も統計的に評価しようという研究です.
この研究では,ある対象について,さまざまな画像を収集します(下の例では,さまざまな木の葉を集めています).さらに,「同じカテゴリーに属する画像の組(この例なら,同じ種類の木の葉の画像の組)」「異なるカテゴリーに属する画像の組」のそれぞれについて,画像の種々の特徴量(色調,空間周波数分布など)の隔たりを求めます.
そして,各「特徴量の隔たり」を軸とする座標空間で,「同じカテゴリーの組」を表す点に値0を,「異なるカテゴリーの組」を表す点に値1を与え,これらの点と値をもっともよく近似する関数を「ロジスティック回帰分析」で求めます.
新たに,同じカテゴリーか異なるカテゴリーかわからない画像の組が与えられたとき,これを上の特徴量空間にプロットして,その点に対応する関数の値を求めます.この値が「この画像の組が異なるカテゴリーに属する」ことの確信度となります.
ところで,ロジスティック回帰分析による判別は,ニューラルネットワークの考え方では2層の階層型ネットワークに相当します.ロジスティック回帰分析では,判別に用いる統計モデルは明確ですが,線形判別ですから,判別の境界が複雑な場合には対応できません.一方,ロジスティック回帰分析の拡張となる3層の階層型ネットワークでは,複雑な問題に対応できますが,判別に用いられている統計モデルが不明確ですし,学習による最適化を行うため計算時間がかかります.
そこで,ロジスティック回帰分析と3層の階層型ネットワークとを組み合わせて,線形判別でも判別できる部分はロジスティック回帰分析で,境界付近の微妙な判別についてはニューラルネットワークで判別します.この方法で,ニューラルネットワークだけを用いる場合よりも,判別精度をほとんど下げることなく,かつ計算時間を大幅に短くすることができます.また,境界付近以外では,明確な統計モデルにもとづく判別の確信度が得られます.
同じカテゴリーの葉の組の例 | 異なるカテゴリーの葉の組の例 |
特徴量の隔たりd1, d2について「同じカテゴリーに属する組」「異なるカテゴリーに属する組」をプロットし,それぞれに「異なるカテゴリーに属する」ことの確信度として値0,値1を割り当てる.これらのプロットと値の関係をロジスティック関数で近似する.
おもな研究発表
- A. Asano, C. Muraki Asano, K. Hotta, M. Ohtaki, M. Muneyasu, and T. Hinamoto, "An experimental study of the hybridization of logistic discriminant analysis and multilayer neural network for image identification," Proc. 4th International Conference on Hybrid Intelligent Systems (HIS'04), 358-363 (2005. 3).
- 平川悟史,浅野晃,村木千恵,"低コントラスト画像の同定における情報量規準をもちいたクラスタリング特徴量の利用", 電子情報通信学会パターン認識・メディア理解研究会,NHK技研,東京,PRMU2002-237, 85-90 (2003. 3).
- 平川悟史,浅野晃,村木千恵,"ロジスティック物体同定へのクラスタリングによる特徴量の導入", 第17回ディジタル信号処理シンポジウム,函館大沼プリンスホテル,北海道,D1-4 (2002. 11).
- 村木千恵,浅野晃,大瀧慈,"物体同定におけるロジスティック判別とニューラルネットワークの適用法について", 2002年度統計関連学会連合大会,明星大学,東京,244-245 (2002. 9).
- 堀田康治,浅野晃,村木千恵,大瀧慈,棟安実治,雛元孝夫,"ニューラルネットワークとロジスティック関数の結合による物体同定", 電子情報通信学会パターン認識・メディア理解研究会,東京工科大学,東京 ,PRMU2001-289, 137-144 (2002. 3).
- 浅野晃,藤原真,村木千恵,大瀧慈,"ロジスティック判別関数を使った画像中の物体同定", 応用統計学会・日本計量生物学会2001年度合同年次大会,総評会館,東京,7-12 (2001. 4).
また,下記の論文は,歯科X線画像処理の一部ですが,画像の最適な2値化を統計的クラスタリングによって行うもので,いわばこの「統計的物体同定」の研究の末裔といえます.
- Agus Zainal Arifin and A. Asano, "Image Segmentation by Histogram Thresholding Using Hierarchical Cluster Analysis," Pattern Recognition Letters, 27, 13, 1515-1521 (2006. 10).